フリーランスとしての道を歩み始めた私にとって、最初の個人案件は大きな期待と喜びに満ちていました。しかし、その喜びは長くは続かず、苦い現実に直面することになります。契約書を交わさず、無償で協力を申し出たことが、後々どれほど大きなリスクを伴うのかを痛感しました。これは、フリーランスとして独立する際に陥りがちな「甘い見通し」がもたらした結果でした。
このストーリーは、私が経験した挫折や苦悩、そこから学んだ教訓を通じて、これからフリーランスとして活動を始めようとしている方々、また同じ道を歩んでいる方々に向けて書かれています。お互いの成長や成功を支えるためにはどうすればいいのか、この実体験がその一助となれば幸いです。
私の失敗談が、「自分には関係ない」と思われるかもしれません。しかし、同じような状況に陥った際に思い出していただき、何らかの参考にしてもらえることを願っています。そして、フリーランスとして仕事をする上で大切なことを一緒に見つけていきましょう。
第1章: 無償協力の始まり - 背景と初動の甘さ
「無償の好意が招く悲劇: 口約束だけで仕事を始めた結果」
初めて個人で受けたWeb制作案件。当時の私は、キャリアのスタートとして気持ちが高ぶり、無償でも「とにかく実績を積みたい」という一心で仕事を始めました。しかし、その無償の好意が後に悲劇を招くとは、この時点では思いもしなかったのです。
無償協力の背景
クライアントとの最初のやりとりは実にスムーズでした。親しみやすい人柄、共通の価値観、そして「一緒にいいものを作ろう」という熱意。それらにすっかり感化され、私は自分のスキルを最大限に活かしたいという思いに駆られました。
クライアントは小規模な個人事業主で、「予算を抑えたい」という要望がありました。私は「この人の力になりたい」「成功に貢献したい」という感情で動いていました。そして、その気持ちが「無償でも構わない」という判断につながったのです。
口約束だけで進んだ初動
仕事のスタート時、私は契約書を交わしませんでした。具体的な業務範囲や納期の確認もせず、「無償だからそこまで厳密でなくてもいいだろう」と思い込んでしまったのです。
クライアントも特にこちらを急かすことはなく、やりとりは順調そのものでした。進捗を報告するたびに「ありがとうございます」「ここまでやっていただいて感謝です」と感謝の言葉をもらい、私はその信頼に応えたいとさらに頑張りました。
しかし、その信頼の「形」が曖昧なままだったことが、後の混乱を生む大きな原因でした。
突然変化する要求
進行が順調に見えたプロジェクトも、進捗が半ばを過ぎる頃から様子が変わり始めます。クライアントの依頼は次第に不明確になり、曖昧な表現で追加の作業を求められることが増えました。
- 「ここのレイアウトをもう少しシンプルに」
- 「新しい機能を試しに加えてみませんか?」
- 「この部分の修正、お願いしてもいいですか?」
そのたびに、私は「まだ無償だから」と応じてしまいました。もはや明確な納期や業務範囲は形骸化しており、やるべき作業が次々と膨れ上がっていく感覚に陥りました。
甘い初動がもたらした損失
この時点でようやく気づいたのです。「無償」というスタートの甘さが、クライアントにとって私の時間や労力が「軽んじられる」要因になっていることに。もちろん、クライアントが故意に悪意を持っていたわけではないでしょう。しかし、相手の中で「無償だから大丈夫」という認識が生まれてしまったのは否めません。
さらに、口約束だけで始めたことが大きなリスクを生みました。具体的な業務範囲や条件が曖昧なため、どこまでが「仕事の範囲」なのかが不明瞭になり、追加作業が無限に増えていく状況に陥ったのです。
教訓: 無償でもプロフェッショナルであるべき
この経験から学んだのは、無償の仕事であっても、以下を必ず守るべきだということです:
- 契約書の締結 - 業務範囲、納期、条件を明確にする。
- 業務の可視化 - 進捗を具体的に共有し、確認を取る。
- リスクの認識 - 無償であることを理由に、自己犠牲的な働き方をしない。
この時点では、まだプロジェクトが順調だと思い込んでいました。しかし、信頼関係の裏側で起きていた“別の動き”に気づくのは、もう少し後のことです。突如現れた第三者の介入が、さらなる問題を引き起こすきっかけになるのです。次章では、この突然の方針転換によって生じた混乱と葛藤について掘り下げます。