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パワー半導体として(電力スイッチング素子として)のMOSFETの正しい特性と動作について徹底解説!

こんにちは。今日はパワー半導体としてのMOSFETの正しい特性と動作について、実際のデータをもとに整理してご説明します。


MOSFETとは
MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor/金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)は、増幅用にも使われますが、ここでは電力スイッチング素子としての動作に絞ります。ほとんどがNチャネル(N-ch)タイプで、端子はゲート(G)、ドレイン(D)、ソース(S)の3つ。高精度制御用に、ソースを分割して信号帰還用に用いる「ケルビンソース端子」を備えた4端子品もあります。パッケージはスルーホール、表面実装(SMD)、SiCモジュールなど多様なので、端子配置は必ずデータシートで確認してください。


ゲートしきい値電圧(V<sub>GS(th)</sub>)
しきい値電圧とは、ドレイン電流が微少(典型250 µA程度)流れ始めるゲート・ソース間電圧のことです。一般的なパワーMOSFETでは1.5 V~2.5 V程度に設計され、チャネル形成開始点の目安となります。実用的には、5 V以上、特に10 V以上を印加して完全導通させます。


ゲート駆動とLED点灯実験
電源電圧(V<sub>DS</sub>)を10 Vに固定し、V<sub>GS</sub>を変化させながらLEDを接続すると次のようになります。

  • V<sub>GS</sub>=0–2 V:ほぼOFF(LED消灯)
  • V<sub>GS</sub>≈3 V:チャネルが形成され始め、微弱にLEDが光る
  • V<sub>GS</sub>≥6 V:完全導通し、LEDはフル点灯

電圧を下げると、同様に徐々に暗くなり消灯します。これがゲート電圧によるオン/オフ制御の基本です。


ドレイン電流–ゲート電圧特性
横軸にV<sub>GS</sub>、縦軸にドレイン電流I<sub>D</sub>をとると、しきい値以降はV<sub>GS</sub>を上げるほどI<sub>D</sub>が増加し、やがてオン抵抗によって飽和します。


オン抵抗(R<sub>DS(on)</sub>)
完全ON時のドレイン–ソース間抵抗をR<sub>DS(on)</sub>と呼び、I²R損失を左右する重要指標です。

  • V<sub>GS</sub>=6 V駆動で15~30 mΩ程度
  • V<sub>GS</sub>=10 V駆動で10~20 mΩ程度
    といった特性を持つデバイスが一般的で、大電流用途ではさらに低いmΩ級が求められます。

IGBTとの比較

  • MOSFET:導通損失=I²×R<sub>DS(on)</sub>
  • IGBT:導通損失=I×V<sub>CE(sat)</sub>(V<sub>CE(sat)</sub>≈1.5 V前後)

低電圧領域(数十V〜数百V)ではR<sub>DS(on)</sub>が小さいMOSFETが有利ですが、高耐圧化するとR<sub>DS(on)</sub>が急増するため、600 V超ではIGBTやSiC-MOSFETが選ばれます。


DMOS構造とボディダイオード
パワーMOSFETは縦型のDMOS(二重拡散MOSFET)構造で、デバイスを貫通するチャネルを形成します。ゲートには絶縁膜があり外観はコンデンサ状。構造上PN接合のボディダイオードが生じ、逆方向保護として動作しますが、効率向上のためには同期整流(ダイオードを介さず自らオンさせる手法)が有効です。


耐圧とR<sub>DS(on)</sub>のトレードオフ
デバイス内の空乏層(ドリフト層)を長く/不純物濃度を下げるほど耐圧が上がる一方、通電経路が長く・抵抗が増えるためR<sub>DS(on)</sub>も大きくなります。


スーパージャンクション(SJ)MOSFETの歩み

  1. 1978年:大阪大学・城田/金田らがP/N柱構造を提案
  2. 1984年:Philips(現Infineon)のDavid J. Coeが特許出願、1988年に認定
  3. 1997年:富士電機の藤平達彦氏が“スーパージャンクション”を命名
  4. 1998年:Infineonが商用SJ-MOSFET「CoolMOS™」をリリース

SJ構造では微細に交互配置したN/P柱構造で電界分布を制御し、従来のトレードオフを大幅に改善しています。


SiC-MOSFET
SiC材料を用いたMOSFETは、従来IGBTが担っていた高耐圧(600 V以上)領域でも低R<sub>DS(on)</sub>・高速スイッチングを実現します。

パワー半導体をスペック以上で使ってしまうと、大体は過電流、過電圧、発熱のどれかで壊れてしまいます。パワー半導体は大電流を扱います。


以上、最新のデータと歴史的背景に基づく、パワーMOSFETの正確な動作・特性まとめでした。次回は具体的なIGBTとの使い分け例をご紹介します。

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